Report/Survey

レポート/アンケート

上演作品振付家

砂連尾 理

振付家・ダンサー/立教大学映像身体学科教授

-あなたは、どういう振付家を育てたいと思いますか。

ダンスというメディアは身体表現なので、身体技法の研究、技術を研鑽し磨いていくことに意識的であることは振付家としては基本的なスタンスであると考えます。そういった身体に対しての意識はもちろんのことダンスにおける音楽性、また舞台芸術における歴史性、時代性をきちんと認識しながらダンスとして何を表現するか、その問いをきちんと立て、それらの問いに対する思考を巡らし、それらをを支えていくだけの哲学をきちんと持った振付家を育てたいなと考えます。また、表現が自分の身体の探究や劇場内での表現方法に閉じることなく、社会と繋がっていくことも同時に重要で、その為にも時にはスタジオや劇場を飛び出て、様々な現場にも身を置きながら思考、実践を往復し表現を考えていけるような振付家を育てたいです。

 

-また、そうした振付家を育てるために、何が大事だと考えていますか。

先ずは振付家自身が自分で考える力、それを表現していけるだけの技術の研鑽は重要ですが、特に舞台芸術に於ける表現は一人だけで作られるものではないので、それを協働していけるだけのチーム作り、どのようなスタッフと出会い、信頼関係を深め合っていけるかという視点もとても重要です。そして、そこで作られた作品を育ていく劇場のような場、その作品が必要な場に届けていくプロデューサー、また芸術を味わい、思考する観客も同時に必要で、それらの関係性が円滑に循環していける環境作りが重要であると考えます。それらを総合して考えると、振付家を育てるというのはコミュニティー、延いては民主主義社会を考えることにも繋がっていくのではないかと考えます。

 

-実際に行ってみてどうでしたか。また、期待していたこと、これから期待することなど、お聞かせください。

今回のリバイバルに際して、私のパートはパートナーである寺田みさこさんの振付のようにバレエの型をベースにして作ったものではなく、自身の身体性に基づいて作った振付であったため、それがはたして他者の身体に振付られるのか?しかも20年の時を経て今の時代の若い人にその振りは受け入れられるものなのか?といった戸惑いを持ちながら今回のリクリエーション作業に臨みました。ただ、作業を進めるにつれ、当初の心配をよそに、今の若い人たちにも私の振付、そして私たちのダンスを受け入れ、楽しんで踊ってもらえたことが今回参加して何より良かったなと感じました。そして、彼らとのリクリエーション作業を通して、個人的には20年前に私たちが取り組んでいたことに対して距離を取り、客観的に見ることができたことも大変良かったです。それは、私たちのダンスにはユニゾンをすることや、目を見つめ合わることがほとんどなく、また、コンタクトの動きなど、デュオのダンスであれば、よく用いられる手法も用いられることが少ない私たちの方法論について改めて考える機会となり、デュオとは何か、またダンスとは何かといった問いを考えることに繋がっていきました。そして、その問いはリバイバル上演が終了した今も続いていて、今回出会った若い4人のダンサーとの関係は引き続き継続し、オンラインを通して我々の振付に対しての研究、その言語化作業を行なっています。今後、これらの作業を重ねていくことで、ここで紡いでいく言葉が映像記録とはまた異なった形式のダンスのアーカイブになっていくと良いのではと考えています。そしてこれらの作業の先には、作品の振り移し作業が我々の手を離れ、今回の振りの受け手だった彼らが、更にその次の世代への繋ぎ手になっていくことになることでコンテンポラリーダンスのアーカイブ、継承という問題を考えていけることに繋がれば良いなと思います。