Report/Survey
振付家・ダンサー
山代温泉専光寺での滞在制作・発表では、実験的に作品を発展させることを受け入れてもらえる貴重な環境であった。ここで得られた学びは、大きく分けて2つある。
1つは、上演環境が作品に与える効果や影響の大きさである。今回、観客の入場時の誘導や上演順、客席の配置、休憩時間といった上演環境を他の振付家らと決める機会に恵まれた。寺院という上演場所の特性上、気温条件を考慮する必要性や、どこでも上演エリアになりうるといった自由さにより、作品の中での優先順位や観客とどのような体験を共有したいのかということをより明確にし、それらを他の振付家の希望と擦り合わせる必要があった。実際に、リハーサルや上演回ごとに様々なパターンを試す中で、上演時の自身の身体感覚や観客の反応、さらに観客として他の作品を見ていた時の集中度が想像以上に変化したのを実感した。このように、上演環境までを‟振付”の大きな枠組みとして捉える経験を通して、作品内の身体の動きだけでなく、上演全体の空間と時間を構成する視点の重要性や環境が個々の作品に与える影響の大きさを学んだ。
2つ目は、自分のアイデアを信じて試すことの大切さである。今回ソロに取り組む中での悩みが、作品を客観的に見るのが難しいことであった。そのため、やってみたいと思ったことに対し、「現実的に難しい」といった頭の中の批判的な意見を優先してしまい、妥協案から試すが納得できずに創作が滞るという状況によく陥っていた。現地では、作品を試す余地を沢山与えてもらったことで、まず自分が本当にやりたいことを実際に試した結果、集中して創作を進めることができるようになった。その基盤があるからこそ、他者からの意見を上手く取り入れながら、より納得した作品ができると気づいた。「やりたいことをやる」のは当たり前のことだが、創作時に思考に集中してしまう傾向のある自分にとっては大きな収穫であった。
上演日には幅広い年齢層の地元の方々に作品を観て頂けて、さらに上演後に感想や意見を直接聞く場が設けられたことで、自分の作品がどのように捉えられたのかということの一部を知ることができた点が非常に有難かった。特に、様々な年齢層・属性の人々と身体表現やダンスの関わりに個人的に関心があるので、ぜひ今後の活動の参考としたい。