「KYOTO CHOREOGRAPHY AWARD (KCA)2024―若手振付家によるダンス公演&作品を巡るディスカッション―」受賞結果について

2025.2.25

「KYOTO CHOREOGRAPHY AWARD (KCA)2024

―若手振付家によるダンス公演&作品を巡るディスカッション―」受賞結果について

【KCA京都賞】宮悠介
【KCA奨励賞】豊田ゆり佳、中川絢音/水中めがね∞
【オーディエンス賞】高橋綾子/Ayalis In Motion、宮悠介
【ベスト・ダンサー賞(高橋綾子作品出演)】荒俣夏美、小泉朱音

 

<審査委員> *当日、お話をされた順に記載
黒田育世(振付家・ダンサー、BATIK主宰)
高嶺格(演出家・美術家、多摩美術大学教授)
東野祥子(振付家・ダンサー、ANTIBODIES Collective 代表) 
鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長)
三上さおり(世田谷パブリックシアター 劇場部企画制作担当)
唐津絵理(愛知県芸術劇場芸術監督(アーティスティックディレクター)、Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター)
石井達朗(舞踊評論家)

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授賞式 審査員のコメント 

■黒田育世(振付家・ダンサー、BATIK主宰)

 

 皆さん素晴らしいパフォーマンスを大変ありがとうございます。今回一番悩みました。まず皆さんへ。ダンサーが素晴らしかったです。ダンサーが作品の一部で主成分であるということを、皆さんがまざまざと見せて下さいました。私にとってダンサーとは命のような存在なので、そういう方々が舞台上で輝いてくださってると私はとても幸せです。受賞された方々も、されていない方々も、これからも振付やダンスを続けていただきたいと思います。 

 振付家の方へ。振付家とは、チャレンジングな作品、未知の作品を作りだすということもありますが、耐え続ける能力もとても大切になります。芸術分野で活動していくことは経済的に非常に難しいです。将来的にカンパニーを持つことになると、尚の事です。結局は私財を全てつぎ込まないといけない…というような、非常に熾烈で過酷な生活が待っていますし、それに耐え続けるという事が非常に大変なことだと思います。しかし同時に作品を実現する時は、助成金をいただいて、スタッフさんを含め皆さんの手厚いご協力をいただいて創るものなので、毎回捨ててしまうのではなく文化財であるという事を誇りにしてください。そして、維持し続けるという事も振付家の一つの役割になっていくのではないかと思います。歴史的な振付家、偉大な振付家であるピナ・バウシュやマギー・マランが何十年も作品をキープして下さっているからこそ、享受できるものがあると思います。私達も同じように、再演をする価値がある作品を創る、かつ再演をするために努力をする、ということも必要になってくると思います。皆さんこれから非常に大変な作業をされると思いますが、ダンサーと力を合わせて頑張ってください。そして、感謝を忘れないでください。私は今日皆さんに沢山エネルギーを頂戴したことを感謝申し上げます。ここの場所を成り立たせてくださっているお客様とスタッフの皆様にも、JCDNにも感謝を申し上げます。大変ありがとうございました。

 

■高嶺格(演出家・美術家、多摩美術大学教授)

 
 コンペにはいろいろ功罪もありますが、それを分かって応募してこられたということで、心を鬼にして審査をしました。前回も思った事なのですが、ダンスの世界には、トゥシューズに押しピンを入れたりといったような現実もあろうかと思うのだけれど、しかしKCAではそんなセコさは一切なく、終わった後のディスカッションのときには、互いを思いやる温かい空気があり、作品と同じくらいに大切なものが生まれていると思いました。今回の参加者6組の中で、東京ベースの方々が5組、石川ベースの方が1組で、関西勢が入っていませんでした。主催者に聞くと、やはりそこは、作品を作る技術とは別に、ビデオ編集はじめプレゼンのスキルで差がついてしまうと。もしここに関西の方がいらしたら、しかと聞いていてください。あと、他の審査員と色々お話できることも私にとっては貴重なのですが、いつも帰着するのは、「文化庁もっと金出せよ」ということ。舞台芸術を続けていくには経済的な苦労が多いかと思いますが、助成金をどう獲得するか、稽古場をどう確保していくか、など、日本で活動する上で共に抱える問題が多々あると思います。そこは分母の少ないコンテンポラリーダンスであることを味方につけて、互いに知恵を交換しながら、世界でたたかえる作品を世に出し続けていってほしいと思います。おめでとうございます。

 

■東野祥子(振付家・ダンサー、ANTIBODIES Collective 代表) 

 
 皆さんおめでとうございます。そしてお疲れ様でした。本当に素晴らしい作品が沢山あり、私も20年前はそちら側に座っていたんだな、ということをとても懐かしく思っていました。この雪の日に、このアワードに参加したこと、ここに居たということを経験として、これからもダンスを続けていってほしいです。作品を生み出すこの苦しみをずっとずっと味わって、楽しんで、心臓に毛がボーボーに生えてしまうくらいになっても、自分の作品を作り続けてください。将来、この世界に向かって皆が羽ばたいてほしいと思っています。皆さんお疲れ様でした。

 

■鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長)

 
 私はコンテンポラリーダンスを専門にしていないので、皆さんが普段どんな作品を作っているのか、これから続けていけそうな可能性があるのかといったことは一切知らず、二日間見させていただいた作品だけで、今回の審査をさせて頂きました。その中で京都賞の宮さんの作品をとても面白いなと思いました。自分の形というものは自分では分からないものであり、それが人と人との間でぐちゃぐちゃとしていくなかであらわになっていく、ということが、見ていて腑に落ちる感じがして、良い作品だなと思いました。その他の皆さんも今この場では全て感想を述べられないですが、これからも頑張ってもらえれば嬉しいなと思います。ありがとうございました。

 

■三上さおり(世田谷パブリックシアター 劇場部企画制作担当)

 
 最近は、劇場での公演にあまり魅力が沸かない、というアーティストも増えているように感じます。けれども、今日は同じ舞台上で、さまざまな表現を見ることができて、とても嬉しく思いました。屋外や劇場以外の場所で生まれる作品も楽しいですが、劇場スタッフとしては、劇場空間を異次元へと導く求心力をアーティストひとりひとりに期待します。今日はそれぞれの作品に気迫と信念を見ることができましたが、観客を異世界に誘う心意気のあるシーンも見つけられたかなと思います。劇場は作品によって全く異なる空間へと変容します。ダンスのテクニックや細かな演出アイデアももちろん大切ですが、この場所に作品という新たな時空を出現させるのだ、という目標を持って頂けたらと思います。これからも頑張ってください。

 

■唐津絵理(愛知県芸術劇場芸術監督[アーティスティックディレクター]、Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター)

 
 皆さま今日はお疲れ様でした。この時代に作品を発表するということは、本当に難しいことです。日本でアーティストとしてこれからやっていこうとするところには、沢山のハードルがあると思います。今日このアワードで作品を発表したという事は、自分がプロとして日本で何らかの活動をしていきたいということの1つの意思表示だったのではないか、というふうに捉えています。そういった宣言をしたという事は、振付とは何か、ダンスとは今日的にどういう意味を持つのか、ということをここからずっと問い続けるという長い長い旅のスタートに立ったのだと考えています。
 私は30年以上もプロデューサーを務めており、作品を色々なところに送り出すという仕事、アーティストと一緒に作品を作るということをしてきました。その中ではもちろん、どのような作品を作るのか、どのような人達と作品を作るのか、といった沢山の要素が必要になりますが、問い続ける力と、人を巻き込んでいく力というのがすごく重要だと考えています。自分一人で考え続けることももちろん必要なのですが、沢山の人を巻き込んで、自分がダンスにどれだけ惹かれているか、その気持ちを皆にシェアするという気持ちで、これから長い間ダンスと付き合って頂ければと願っています。今日は素晴らしいダンスを見せていただきありがとうございました。今後も頑張ってください。

 

■石井達朗(舞踊評論家)

 
 毎回こういうアワードの審査をやる度にすごく矛盾を感じます。コンテンポラリーダンスの作品は、陸上競技でいう長さや、時間の短さといったような、数字で決められるものではありません。順位を付け難いものに対して、今回のようなコンペティション形式は良いのかどうか。いつもそういう矛盾を感じながら参加しています。しかし、コンペ形式のメリットというのがすごくあることも事実です。しかもそれが京都で行われているという事が大切です。京都は今や皆さんご存知のように世界で最も注目される都市です。「京都」と「コレオグラフィー」という二つの言葉が結びつくような意外なコンセプトは、世界中でここだけしかないのです。ですからこれから少なくとも5年10年はこのアワードを育てていきたいですね。今はSNS全盛の時代で、パソコンを見ても携帯を見ても言葉が過剰なまでに飛び交っています。そうではなくて、自分の身ひとつで何ができるか、自分の身ひとつを人前にさらした時に何が伝えられるのか。そういうことを大切にするのがコンテンポラリーダンスです。そこから、他者の身体に対する想像力が育つのではないかと思います。それが今、政治の世界で起こっているようなエゴが暴走するのを抑えることにつながるかもしれません。これからも我々と一緒に、ユニークなKYOTO CHOREOGRAPHY AWARDを育てていきましょう。ありがとうございました。

 

 受賞者の皆さま、おめでとうございます。
6組の作品はそれぞれに良さがあり、ひとつひとつ違うもので、コンテンポラリーダンスの多様さを感じさせる上演となりました。振付家、そして出演者お一人お一人の今後のご活躍を心より応援しています。2年後のアワード公演に向けて準備を進めてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)一同

 

photos by Toshie Kusamoto